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音楽と剣 鷹 |
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剣 鷹プロフィール |
5/4本番
頭にびしっと「韋駄天」ハチマキ。
翌日の行動は流れるようにあっと言う間に進んで9:00にはアートトラック会場に俺
と丸ちゃんは立っていた。まだ飯も食ってない。とりあえず出演交渉の事で私は係らしき
人を探した。アートトラックは全国に跨がってかなりの団体があり、会場はきらびやかな
10t級の大型トラックが次々と入場してくる。
テントがずらりと立ち並び、北関東支部、東北支部、中国支部、東海支部、そして地元の神戸支部、その中で俺は九州支部というのを見つけ出す。
九州支部を橋渡しに会場係に話をする。
向こうのほうから歩いてくる、貫祿と気品のあるおっさんがどうやら会長のTさんらしい。鶴の一声という感じで係の奴が来てコンサート係の方を指さす。
「あっちがコンサートの係なんで、あそこで話してみて下さい」
俺は会場を一回りしてやっと目的地にこぎ着けた。
「今日何時ごろ、何曲くらい歌わしてもらえますかね」
「そうね、オープニングで挨拶のあと2,3曲かね」
「じゃあ3曲お願いします」
コンサート係のこの人はとても親切だった。この人が何者かは、のちに分かることとなる。俺の出番はオープニングのすぐあとということになった。しばらく時間があるので屋台を回った。続々と入場してくるトラックまたトラック。
「いやー、すごいっすよー、いいっすよー」
と、立ち並ぶ豪華なトラックにM氏はいささか興奮気味。とりあえず朝食を取る事にした。カレーライスを食ってウーロン茶を飲んだ。
開会は予定より大分遅れて11:00、かんかん照りで俺はもう完全に疲れ果ててしまった。会長の挨拶が始まる。やはり神戸という事で震災に関する話が主だったが、このアートトラックの趣旨に震災チャリティーがあることがよく分かった。
トラック野郎は見た目は恐いが心根はあったかいという事が改めてよく分かった。
そして俺の出番が来る。ついに来たぜという思いだった。炎天の下で何を言ったかはもうおぼえてない。記憶をたどって数珠みたいにつなぐと、次の通り。
「みなさんこんちはっ!私、上田賢次は遙か南国、宮崎から、今日ここで皆さんにお逢い
するためにやってきました。これから歌うやつは全部、私が作ったやつです。
まあ、オリジナルというもののとらえ方も様々ですが、今から歌われる曲は日本ひろしといえどここでしか聴けません。そこんとこ宜しく」
歌の途中でトラック野郎が俺の所に走ってきた。そして金をそっと伏せてわたしてくれた。この時は感激だった。
「なんかに使えや、なっ」
「ありがとうっ!ありがとうごさいますっ!」
私は堀内孝雄みたいに威勢よく言った。歌っている最中に客に金を貰ったのはこれが初めてだった。彼は前列で最後まで派手に拍手をしてくれた。
そして引き上げる時には沢山の拍手をもらった。しかし出来自体はよくなかったことは自分が一番よく分かった。声はへばっていて50パーセントくらいではなかったか。
うけたのは多分、前回には足りなかった気合である。コンディション作りの難しさは、今後の課題である。
そして次に出てきたのはプロの演歌歌手、なんとさっき音響をやっていた人ではないか。さすがにプロ、声がぶっとい。声のキーは私の方が高いが、伸びと太さで完璧に負けていた。そして一番肝心なのは、声の表情、これもすごい。
やがて昼食、何かの係らしきおっさんが俺と丸ちゃんに弁当をくれた。中はにぎり飯二個と沢庵、そしてウーロン茶がついている。いかにもトラック野郎らしい弁当だ。
「どうも、いただきます」「食いない、まだ一杯あるよ」
しかし一つで十分腹は満たされた。
その日の9:30、ずっと小倉から付き添ってくれたM氏とお別れ。なごりは尽きなかったが美容院で別れた。その日の朝めしは野菜ジュース。そのあと私は一人、美容院に入る。
「いらっしゃいませーっ」と俺に言うが早いか帰りの客に「ありがとうございやしたー」一人が言うと引火して全員が言う。威勢のいい、まるで寿司屋の様な美容院であった。
私はイスに移動するのに店の人に抱えてもらった。こんときは痩せてて良かったと思った。それから髪のカット、小倉の商店街を行ったり来たり。感じのいい喫茶を発見、開店の10時まで時間を潰すことにした。
膝がさっそくピリピリ痺れてきたので、お店のおばさんに膝を動かしてもらった。通りすがりの人に「今何時ですか」
そして喫茶が開いて俺は飛び込んだ。
「車イスで入れますか」
「はいれるわよ。はやくきて。ハンサムなお兄さん」とは言わなかった。
店のなかは白と薄緑で統一され、床は茶色、私の趣味の一つに「喫茶に入ってお茶を飲む」というのがあるが、それを十分に堪能できる店だった。喫茶はいいよなあ。
店の女の子は感じがいい。スペースを取る電動車イス、店員はイスをどけて入りやすくしてくくれた。俺はメニューを一読して「トーストとウィンナーコーヒーね」
「はい、かしこまりました」
見知らぬ街の見知らぬ喫茶、何とも言えない。一人旅の気分を満喫しながら店内の鑑賞をする。
中世を思わせるシャンデリア、壁に掛けてある絵画は誰のものか。
シックでモダンな感じのする喫茶で、韋駄天ハチマキを巻いた私はちょっとミスマッチだったかもしれない。
それから暫くは、三つの商店街をウロウロ。小倉はやっぱでかい。少しだけど東京の匂いがする。人はやや少ないが歩くには丁度いい。昼を過ぎるまで、いろんな店を視察した。
「さてと、そろそろ駅へ行くか」
そこからは甲板を見ながら一人で駅まで行った。この方向音痴な私でもすぐに行けるほど近かった。まだ早かったので駅を出てデパートによる。小倉は凄い。でかい。入ったデパートはそごう。店の姉ちゃんが綺麗である。俺はどうも制服に弱いらしい。用もないのに用事を頼んだ。それからまた暫くデパート周辺をウロウロ。脚が痺れてきたところで、バス停前で立っている女性に声をかけた。これは小さな出会い。
「私、昨日まで大坂にいたんですよ」
「えっ、俺は神戸よ。偶然やねえ、おたくは福岡生まれ?」
「はい、でもすこしまえまで大分の別府にいた時期があったんですよ」
「えーっ!ちょっと嘘やろ。俺もつい最近まで別府いたんだわ」
「えーっ、そうなんですか。なんか似てますねえ。」
それがきっかけで話が始まった。卒業したばかりの医大生、眼科。障害者授産施設「太陽の家」のことや、整肢園という施設に実習に行ったこともあるという。そして自分自身が励まされたと言っていた。
私は太陽の家の知り合いに進められて応募した論文が受かったことを話したり、自分の今後の活動のことを話しているうちに、
なんとバスが過ぎてしまった。
俺はのんきに「バスは遅いですね」
「ああ、じつはさっき行ったのみたいなんですよ」
この人もっとのんき。
「えっ、すぎたの!あちゃー、ごめんね、長話して」
「いえいえ、また買い物してきますんで」
それで別れて俺はまた街をブラブラ、福岡の友人、矢山朝一の電話を待っていた。
私の携帯はぼろい。ちょっと建物の中に入るとすぐエリア外になる。だからずっと外外外での散歩。そしたらまたあの子とあった。
「今度は乗り過ごさないようにね」
「はい」そしてまた少し話して、俺は旅の思い出に、彼女と写真を撮った。そして暫くして矢山君からやっと電話がきた。そこで彼女はバスが来て笑顔でさようなら。いちまつの寂しさを感じた。さようなら福岡のひとよ。
この半年後、彼女は私の福岡ライブに、行けないからと豪勢な花束を贈ってくれた。
ビックリした。とても嬉しかった。
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